深淵探訪

これは友達の友達から聞いた話

現代語訳:諸国百物語 ・七 蓮台野二つ塚化物の事

七話目

今回は、都の蓮台野で怪異の話しですが、本題に蓮台野について自分も良く知らなかったので、調べてみると、

〘名〙 (蓮台に乗って浄土へ行く野の意から) 墓地。火葬場。地名となっている所が多い。特に京都の船岡山の西麓の地が有名で、上品蓮台寺や後冷泉天皇、近衛天皇の火葬塚がある -大辞林

と言うことで、恐らく京都にある墓所での出来事。一人の若者の肝試しにまつわる怪談です。


現代語訳:七 蓮台野二つ塚化物の事

都の蓮臺野(れんだいの)という場所に、昔から二つの塚がありました。

その塚は約二町(約220メートル)ほど離れており、一方の塚は夜ごとに燃え盛り、もう一方の塚からは恐ろしい声で「来いよ、来いよ」と呼びかける声が聞こえていました。

この声を聞いた者は皆恐れおののき、日が暮れるとその場所を通る人は誰もいませんでした。

ある雨風が激しい夜、若者たちが集まって「今夜、誰か蓮臺野へ行ってその化け物の正体を見届けて帰ってくる者はいないか」と話し合っていました。

その中に、特に力が強く心も勇敢な若者がいて、「私が確かめに行こう」と言い、暗闇と激しい雨の中を向かいました。周囲は凄まじいほどの闇と嵐で、恐ろしさは筆舌に尽くしがたいものでした。

それでも若者は勇気を振り絞り、一方の塚に立ち寄り耳を澄ませると、例のごとく「来いよ、来いよ」と呼びかける声が聞こえてきます。若者は声を張り上げて言いました。

「何者だ! 毎夜そんな声を上げるとは何の理由か。本当の姿を現し、懺悔せよ!」

すると塚の中から四十歳を過ぎたほどの、顔色が青白い女が現れました。

そして女は言いました。「このように呼びかけているのに特別な理由はありません。ただ、あそこに見える燃え盛る塚へ私を連れて行ってください。」

若者は恐ろしさを感じましたが、元々決意してきたことだったので、その女を背中に負い、燃える塚へ連れて行きました。

塚に着き、女を降ろすと、女はそのまま塚に入っていくかと思われましたが、突然塚の中が大きく揺れ動き、しばらくするとその女は鬼神の姿に変わりました。

目はギラギラと輝き、体には鱗が生え、言葉で表現できないほどの恐ろしい姿となりました。そして鬼神は若者に向かって言いました。「元の塚へ私を連れ戻せ。」

若者は気を失いそうなほど恐怖を感じましたが、再び女を背負い、元の塚へ戻りました。そして女を塚に降ろすと、鬼神は喜びながら塚の中に入りました。

しばらくすると、女は元の人間の姿に戻り、若者に向かって言いました。「あなたのように勇敢な人は他にいません。これで私の望みも叶い、感謝しています。」そして、何やら重いものが入った小さな袋を渡しました。

若者はまるでワニの口から逃げ出したような気持ちで急いで家に戻り、集まっていた人々にその顛末を話しました。そして渡された袋を開けてみると、中には金百両が入っていました。

それ以降、この塚では何の怪異も起こらなくなったと言い伝えられています。


所感

英雄譚的な怪談話で、聞き手にはあまり怖さがない怪談ですね。

個人的にバッドエンドが多い怪談の中で、主人公がハッピーエンドで終わるこの話しは好きです。肝試し自体罰当たりと言えば、そうなのですが、怪談って「そこまでやるか?」というバチが多いので、何だかホッとします。

ちなみに舞台の蓮台野ですが、今でも後冷泉天皇火葬塚などは残っていてGooglemapなどでも確認できます。周りは普通の市街地になっています。古くは平家物語の一文にも現れ、神聖な場所かつ、その性質上、不思議な事が起きる場所として人々に認識されているようですね。


参考書籍:

現代語訳ではないですが、ふりがなが振られており、単語の意味なども掲載されているので読みやすく勉強になります。

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