有名なネットロアと言うより、洒落怖スレッドに語られた怖い話しなので、都市伝説とは違う、と思っていたのですが、たとえば、最近アップした「赤いクレヨン」のように完全に創作した怖い話が創作者の手から離れて変形していき、息をし始めたときに、怪談から都市伝説へと変貌するのかなと最近は思うようになりました。
洒落怖系は、いかにも怪談、作り話と言う感じが強いですが、その中でも人気のある話しはぞわっとすると怖さがあります。八尺様も古典的な怪談の作りで、蔵での対峙するシーンは中々の怖さがあります。
八尺様
山陰地方のある村での話。
夏休みに祖父の家に遊びに来ていた少年が、庭先で遊んでいた。
すると、庭先の垣根よりも遥かに背の高い女性がこちらを覗き込んでいた。
少年はその不気味な姿に体が硬直した。
「ぽ…ぽ…ぽ…ぽ…」
低い男性のようなうなり声で、女性は不敵に笑った。
少年は慌てて家に駆け込み、祖父に告げた。
「じいちゃん、庭先に変な女がいた!」
「女?」
「すごく背が高くて、ぽぽぽぽって低い声で笑ってた!」
少年がそう伝えると、祖父の顔が強張った。
そして、少年の肩を掴むと「お前、本当にその女を見たのか?どこでだ!」と詰め寄った。
少年は祖父の剣幕に怯えながらも、庭先を指差した。だが、そこにはもう女性の姿はなかった。
しかし、女性が立っていたと思われる場所には黒く焦げたような跡が残り、肉が腐ったような異臭が漂っていた。
「大変なことになった…」と祖父は呟き、何処かに電話をかけた。
祖母も集まり、少年をぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫だからね、大丈夫よ。」
少年は何が何だか分からないまま、庭先にある小さな蔵に連れて行かれた。
「いいか、お前が見たのは、この土地にいる八尺様という神様なんじゃ。時々、人里に現れて若い人間を見初め、取り込もうとするんじゃ。」
「取り込む…?」
少年はごくりと唾を飲み込んだ。
「いいか、この護符を持って、明日の朝までこの蔵にいるんだ。そして、昼間のうちに村を出れば諦めてくれるはずだ。」
祖母も口を開いた。「いいこと、朝私たちが扉を開けるまで、誰が来ても返事をしてはいけないよ。すまないね。」
そう言って祖母は少年を優しく抱きしめた。
「さあ、再び姿を現す前に。」
祖父たちは少年を蔵に入れると、重い扉を閉めた。
蔵はかび臭く、古い電灯がか細く点いているだけだった。
少年は恐怖に震えながら膝を抱えて泣いたが、やがて泣き疲れて眠りについた。
蔵の上から差し込んでいた陽光は、いつの間にか薄い月明かりへと変わっていた。
目を覚ました少年は祖父たちが置いていったお菓子をつまみながら、不安な夜を過ごしていた。
日付が変わろうとしたその時だった――。
あの「ぽ…ぽ…ぽ…」という声が聞こえてきた。
蔵の扉を叩く音が徐々に大きくなり、やがて爪で引っ掻くような音に変わった。不気味な声が絶え間なく響く。
少年は目を閉じ、耳を塞ぎながら必死に耐えた。
どれほど経っただろうか。いつの間にか静かになり、外が少し明るくなり始めていた。
「おい、大丈夫か?様子を見に来たぞ、返事をしてくれ。」
祖父の声が聞こえた。
少年はほっとして返事をしようとしたが、手に鋭い痛みを感じた。
握り締めていた護符が焦げており、扉の前に置かれていた盛り塩も黒く変色し、異様な匂いを放っていた。
「あいつだ…」
少年は身を小さくして再び黙り込んだ。
再び「ぽ…ぽ…ぽ…」という声が響き渡り、蔵全体が揺れるほどの衝撃音が轟いた。
やがて朝の光が強くなり、不穏な空気が薄れていくのが分かった。
「大丈夫か?」
祖父たちが重い扉を開けたとき、少年は緊張の糸が切れ、その場で意識を失った。
次に目を覚ました時、少年はもう自宅に戻されていた。
意識を失った少年を、父親が車で村から運び出していたのだ。
それ以来、少年は祖父の家に行けなくなったという――。
日本の何処かの村、と言う点で分からないと言うのも都市伝説的なポイントですね。
対峙するシーンは、「耳なし芳一」の話のように昔からあるエンジンではありますが、不気味で怖いなと。
良くできた話しであるためか、かなり人気があり、かつ様々な2次創作にも使われて、漫画や映画にもなっているので、興味がある人は見てみるといいでしょう。