深淵探訪

これは友達の友達から聞いた話

現代語訳:諸国百物語 ・ 十一 出羽の國杉山兵部が妻、影の煩ひの事

十一話目


現代語訳:十一 出羽の國杉山兵部が妻、影の煩ひの事

出羽の国に杉山兵部(すぎやま ひょうぶ)という武士がいた。

この杉山兵部には妻がいたが、ある夜のこと、その妻が小用を足そうと裏口へ出て行った。

そして、しばらくして戻ってきて寝た。

すると、またしばらくしてから戸を叩く音がした。

「誰だ?」と問うと、兵部の妻の声がした。

兵部は不思議に思いながらも戸を開けて中に入れると、火を灯して顔を見合わせてみたが、まったく同じ姿をしていて少しの違いもなかった。

「なんとも不思議なことだ」と思い、夜が明けてから二人を別々の部屋に置き、いろいろと試してみたが、どこにも違いが見つからなかった。

どうにもならずに困っていたところ、ある者が「化け物というものは必ず両手が丸みを帯びているものだ」と言った。

そこで、二人の手を調べてみると、一人の妻の手が少し丸みを帯びていたため、「これこそが化け物だろう」と思い、そのまま首を打ち落としてみたところ、なんとそれが本物の妻だった。

「それでは、もう一人の妻こそが化け物に違いない」と考え、もう一人を殺そうとした。すると、妻は泣きながら必死に訴えたが、兵部は聞き入れず、ついにその首も打ち落とした。

すると、それもまた本物の妻だった。 「これは一体どうしたことだ?」とあまりに不思議に思い、遺体を数日間置いて様子を見ていたが、何の変化もなかったという。

――このような不思議なこともあるのだ。


所感

この話しの怖いところは、妻が二人になったのは何だったのかというところと、武士があまりにも簡単に切り捨てていくところに怖さがあると思いました。

時代的なものもあると思いますが、話しによっては情が深い男性もいるわけで、怪異はこの男性の方では?と思うくらいのサイコパスぶりな気がします 。


参考書籍:

現代語訳ではないですが、ふりがなが振られており、単語の意味なども掲載されているので読みやすく勉強になります。

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