九話目
短い話しですが、ギュッと怪談の怖さ、理不尽さがつまった話しだと思います。
現代語訳:九 京都・東洞院通りの片輪車の話
京都の東洞院通りには、「片輪車(かたわぐるま)」という化け物がいたと言われる。この車は夜な夜な通りの下から上へ上っていくという噂があった。そのため、日が暮れると人々は恐れてこの道を通らなかった。

ある人の妻が、その片輪車をどうしても見たいと思い、ある夜、家の格子の中からじっと外を窺っていた。

夜半を過ぎた頃、予想通り下の方から片輪車の音が聞こえてきた。見ると、牛も引かず、人も乗っていない車の車輪が一つ、ゴロゴロと転がりながら近づいてきた。その車輪には人の腿(もも)が切り取られて吊るされていた。

妻は恐怖で震えたが、さらに恐ろしいことに、その車輪が人のように声を発し、こう言った。
「おい、その女房よ。我を見ている暇があれば、内に戻ってお前の子を見よ。」

妻は驚き、恐怖に駆られて家の中へ走り戻った。そして子供の部屋を見てみると、三歳になる自分の子が肩から腿まで引き裂かれていた。そして片方の腿はどこかへ消え失せていた。

妻は嘆き悲しんだが、子供は戻らなかった。その車輪に吊るされていた腿は、実はその子の腿だったという。この話は、女性が好奇心から無理に恐ろしいものを見ようとすることで災いを招く例として語り継がれている。
所感
勝手な想像ではあるのですが、江戸時代の夜は通りは暗く様々な犯罪があり、江戸は門限があったと聞きます。
家の中からではありますが、通りを見る、と言うのはそういった犯罪など良からぬ事を目撃してしまうのではないかと。今と違って目撃者になるというのは、かなり危険な行為のために抑止的にこう言った話しがあるのかなと思いました。
参考書籍:

現代語訳ではないですが、ふりがなが振られており、単語の意味なども掲載されているので読みやすく勉強になります。