この都市伝説は、筑波大学の寮で発生した語られた話しで、その後、全国に広まり形を変え語られているという背景があります。
怪談話ですが、コミカルで怖いのが苦手な人にはオススメです。
ランニング幽霊
ある大学生の体験談。
大学の寮に入寮を希望していたレイ君。しかし、その年は希望者が多く、例年なら空きが出るはずの寮も満室だった。ただし、一室だけを除いては。
抽選に漏れたレイ君は途方に暮れていた。大学近くの物件はすでに埋まっていて、予算内で見つかる物件もなかった。そんなとき、寮に一部屋だけ空きがあるという噂を聞きつけ、寮長に直談判しに行くことにした。
「あそこは……本当に出るんだよ」
寮長のおばさんは、渋い顔でそう言った。
それを聞いたレイ君は笑い飛ばしてこう答えた。
「僕、全然霊感とかないですから!助けると思ってお願いします!」
懇願するレイ君に、寮長は渋々ながら首を縦に振った。
それから一ヶ月後。無事に寮に入ったレイ君だったが、寮長の言葉通り、本当に出る部屋だった。
毎晩のように寝不足の顔で授業に出るレイ君を見て、友達たちは心配になり、何があったのかを尋ねた。
「ランニング……ランニングする幽霊が出るんだよ」
レイ君は深刻な表情で話し始めた。
それを聞いた友達は大笑い。
「冗談だろ?」
だが、レイ君は真剣な顔で続けた。
「笑い事じゃないんだよ!夜中に走ってくる音がすると思ったら、壁をすり抜けて部屋に現れるんだ。それで突然転んで、ドーンって音がしてさ。最後に『ちきしょー!』って叫びながら消えるんだよ!おかげで全然眠れない!」
友人の一人がふと思い出したように言った。
「そういえば、兄貴が陸上部のエースだったやつの話を聞いたことがある。そいつ、レース中に倒れて亡くなったらしいんだけど、今のレイの部屋に住んでたって言ってたぞ。」
この情報を聞いたところで幽霊が消えるわけではない。しかし、ある日別の友人が思いついたように言った。
「もしかして……そいつ、ゴールできなかったから成仏できないんじゃないか?」
「そんなバカな」とレイ君は思ったが、毎晩聞こえる「ちきしょー!」という叫び声を思い出し、納得するしかなかった。
「確かに……。じゃあ、どうしたらいい?」
友人は提案した。
「簡単だろ。ゴールさせてやればいいんだよ。」
その夜、レイ君と友人たちは計画を実行することにした。幽霊がいつも転ぶ少し手前にゴールテープを用意し、そこで待ち構えるという作戦だ。
深夜、幽霊はいつものように現れた。
「来るぞ!」
レイ君が声を上げると、壁をすり抜けて幽霊が部屋に駆け込んでくる。
幽霊がゴールテープを目にした瞬間、驚いたような表情を見せ、次に安堵したような顔になった。そして両手を上げると、満足そうにゴールテープを切った。
その瞬間、幽霊は静かに消えた。
その日以降、幽霊は二度と現れなかった。レイ君はぐっすり眠れるようになり、寝不足の顔も見ることはなくなったという。
「幽霊をゴールさせた」話は寮内で語り継がれ、レイ君の部屋も無事に通常の部屋として使われるようになったそうだ。
筑波大学は都市伝説の宝庫らしいです。まぁ、若い人たちが集まると恋愛話や、怖い話などで盛り上がるのは今も昔と言う事ですかね。
噂、と言うものは対人がいないと広がらない。人が集まればより噂は出来やすい。
そして、怪談噺は怖いものもあれば、なぜかこう言ったコミカルなものも存在するのが面白いですね。昔の百物語でも笑ってしまうものもあるので、そういったところも昔も今も人間の心理は変わらないのかもしれない。
ちなみに、亜種として、後日談に「よーいどん」と口にしたら再びランニング幽霊が現れた、なんてのもあるようです。