有名な都市伝説で、2000年台初頭には合った話しだと思います。都市伝説ではあるのですが、中身は怪談噺で、大丈夫、と見せかけてダメなパターンの王道とも言える都市伝説ですね。割りと好きです。
「見えているくせに」
アンは教室で一人、机に肘をつきながら深刻な表情を浮かべていた。普段ならクラスメイトと笑顔で話しているはずの彼女の姿に、ケイは不思議に思い声をかけた。
「どうしたの? なんかあった?」
アンは少し間を置き、ため息をつきながら答えた。
「昨日、変なことがあって……」
そう言いながらアンは話し始めた。昨日の夕方、彼女が駅前の交差点を渡っていたときのことだった。
人混みの中、アンは奇妙な違和感を覚えた。目の前から歩いてくる人々の中に、一人だけ明らかに異質な存在が混じっていたのだ。軍服を着た男性で、時代錯誤の格好をしている。その顔は青白く、まるで生気を失ったようだった。そして彼の視線は、まるでアンを射抜くようにじっとこちらを見つめていた。
「何だか変だなって思って、なるべく目を合わせないようにしてたの。でも……」
アンはその瞬間を振り返りながら、言葉を慎重に選んで続けた。
「すれ違うとき、その人が小さな声でこう言ったの。『見えているくせに』って。」
「えっ?」とケイが驚いて聞き返す。
「私も驚いて顔を上げたんだけど、その人、もういなかったの。人混みの中で消えたとかじゃなくて、本当に跡形もなく消えちゃってて……」
アンの声は少し震えていた。その異様な体験が、まだ彼女の中に鮮烈に残っているのだろう。ケイは一瞬冗談かと思ったが、アンの真剣な様子を見て、それが違うことを悟った。
「それって……幽霊とかじゃないよね?」
ケイが恐る恐る尋ねると、アンはかすかに頷いた。
「たぶん……そういうことなんだと思う。でも……それだけじゃなくて」
「それだけじゃなくて?」
アンの口から続く言葉に、ケイの胸がざわついた。
「……今、ケイの後ろに立って、こっちを睨んでいるの」
その言葉を聞いた瞬間、ケイの全身に冷たいものが走った。慌てて振り返るが、そこには誰もいない。教室の後ろにはただの白い壁があるだけだった。ケイは半笑いになりながら言った。
「なんだ、いないじゃん。」
しかし、そのときアンは小さく、しかしはっきりと答えた。
「……うん、だから怖いの。」
アンの言葉はどこか現実感を持たず、不気味な余韻だけを教室に残した。ケイは言葉を失い、再び振り返るが、やはりそこには何もなかった。それでも、背中に感じる冷たい視線は消えないままだった。
まとめ
幽霊の怖さとはなんぞや、と思う事が有ります。幽霊でも大切な人で普通に話せるのであればそこに恐怖はないでしょうか。いや、やはり、そこには確実な「死」があり、「生」に関わると言う理不尽な事が生理的に受け付けない根源たる恐怖を生み出すのだと思います。たとえ大切な人だったとしても、最初は受け入れがたきものがあるのではないでしょうか。
見てはいけない、触れてはいけないものから呼びかけられると言うのは、それほどインパクトがあるものだと思います。
おすすめの書籍
都市伝説の話しを読みたいなら、日本人なら、松山ひろし氏の書籍が面白いと思います。
昔webサイト「現代奇談」を良く読んでいました。そちらのサイトは閉鎖されてしまっていますが、書籍がいくつかでているのでオススメです。
民族学的に学びたい場合は、ジャン・ハロルド・ブルンヴァン氏の書籍が面白いのですが、日本語のKindle本や、そもそも書籍も手に入り辛いのが残念。もし、興味があったら古本などで探して購入してみても面白いと思います。